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【森大介氏】九州から広がる地域の経済改革! 地場産業を支えるドーガンが考えていること

株式会社ドーガンは福岡に拠点を構え、九州地域を対象に事業再生・事業継承ファンドの運営や経営アドバイスなどの事業を展開してきた。地域支援といえば「ソーシャル」の文脈で語られがちだが、同社代表取締役社長の森大介氏が目指すのは、東京一極集中の経済構造の歪みを正し、地域に資金が循環する経済圏を確立すること。

国内銀行、外資系金融と大手金融でキャリアを積みながら、九州エリアの地場産業に着目し、資金を投入する森氏が考える本当のウェルビーイングとは? Wellulu編集長の堂上研が話を伺った。

 

森 大介さん

株式会社ドーガン 代表取締役社長

1967年熊本県生まれ。91年に日本長期信用銀行に入行。98年にシティバンク、エヌ・エイに転職し、福岡出張所の初代所長を務める。2004年にドーガンの前身となる株式会社コア・コンピタンス九州を設立。「地域に“正しく”お金を回し、世界に通用する地場産業を作る」を掲げ地域企業を金融で支援。2020年6月9日に博報堂ケトルとの協業により、ローカル発Webメディア『Qualities(クオリティーズ)』を創設、運営する。
https://qualities.jp/

堂上 研

株式会社ECOTONE 代表取締役社長/Wellulu 編集長

1999年に博報堂へ入社後、新規事業開発におけるビジネスデザインディレクターや経団連タスクフォース委員、Better Co-Beingプロジェクトファウンダーなどを歴任。2023年、Wellulu立ち上げに伴い編集長に就任。2024年10月、株式会社ECOTONEを立ち上げる。
https://ecotone.co.jp/

目次

本当のウェルビーイングな暮らしとは

堂上:森さんは20年に亘って、九州に特化した投資ファンドの運営や経営アドバイスを行っていますが、独立系投資ファンドを運営するなら東京と言われるなか、なぜ九州なのでしょうか?

森:東京より九州で仕事をするほうが、やりがいもあるし楽しいから、ということになりますかね。

堂上:やはり地域への思いもあってのことでしょうか?

森:私は熊本出身ですから、九州に思い入れがあるのは確かですが、ソーシャルな貢献事業をめざしたわけではありません。地域からお金を吸い上げるばかりの東京一極集中の問題を正し、地域の中でお金が循環する経済圏を作るための事業をしています。

堂上:そこはもう、金融のプロフェッショナルが行うビジネスであって、ソーシャルセクターとは一線を画すということですね。

森:ソーシャルというと給料が低くて当たり前とか、やりたいことをするために第一線のキャリアを諦めるとか、何かを「犠牲」にすることを前提に語られますよね。そこが問題なんです。

何かを犠牲にすることが、ウェルビーイングにつながるとは思わないんですよ。

たとえば福岡で働けば、東京よりいい給料がもらえるとしたらどうですか。そのうえ福岡は通勤も楽だし、身近に豊かな自然もある。食べ物も美味しい。そうなれば、東京で暮らすより魅力的だと思う人は多いでしょう。暮らしが快適なだけじゃなく、経済的にも恵まれてこそ本当のウェルビーイングだと思うのです。そして、九州でそれを実現するのが、私たちドーガンの役割だと考えています。

人と違うことがしたい。大学では未経験のアメフト部に入部

堂上:実は、私たちもこの『Wellulu』というメディアを一事業として運営することになりまして、2024年10月にエコトーンという会社を立ち上げました。「ウェルビーイング」という分野もソーシャルの文脈で語られがちですが、そうじゃないという考え方を持っています。

ウェルビーイングを追求することで心地よく働ければ、企業の生産性も向上する、新しい産業も生まれる、といった経済効果を生みながら、結果的に生活者の幸福度も向上するという広がりのところですよね。その点は森さんとまったく同じなのですが、金融を地域で、というのはやはり珍しいですよね。

森:経済規模だけ見れば、どの地域よりも東京が勝っています。でも、福岡のほうが東京より優れているところもたくさんあります。地域というと、京都が世界中の人から人気ですが、福岡のほうが優れているところもある。

どこの地域も強みがあって、各地域がその強みを発揮して、産業を作っていく流れにこれからなっていくと思います。

堂上:森さんから見て、福岡はどのようなところが東京より優れているでしょうか?

森:抜群に独自性を持っている地域かなと思いますね。

堂上:それはよくわかります。面白い人が多いし、みなさん楽しそうに働いていらっしゃるイメージです。

森:逆にいうと、つまりは東京が嫌いなんです。新卒で長銀に入社した時も、他の同期入社の人たちがM&A部門とかプロジェクトファイナンス部門とか海外勤務への配属を希望しているなかで、福岡支店を希望しようとしていました。でも東京に恋人がいたので「吉祥寺か神奈川県の藤沢でお願いします」と言っていたくらいですから。

堂上:本当は九州に行きたかったんですね。なぜそこまで東京が嫌いに?

森:個人的な印象にすぎませんが、東京ではみんなが同じモデルで動いているように見えるんです。私は人と違うことをしたい性格なんですよ。

たとえば大学時代も、高校で運動部を全うしたわけでもなく、運動神経に自信があったわけでもないのにアメリカン・フットボール部に入部しました。体が華奢だったこともあり、頚椎を痛めて、1年で辞めざるを得なくなりましたが。それで次に入ったのがボート部。部員募集のビラに「初心者歓迎」と書かれていたのに、入部してみたら私以外のほとんどが国体やインターハイで活躍して入学したセレクション(推薦)選手ばかりでした。

堂上:どちらもガチガチの体育会じゃないですか!

森:毎朝早朝4時から練習する寮生活で、当番日には一人で部員30人分の料理を作ったりしてね。きつかったですが、競技も生活も仲間と一緒に何かを成し遂げることが楽しかった。しかも、生活費は安く済むし、お金を払ってジムへ行かなくても身体は鍛えられるし、当時は体育会出身者は就職にも困らなかったので、三拍子揃っていてよかったですよ。

堂上:私も大学時代は寮生活を経験しました。ルームメイトは外国籍の人たちでしたけど、学生時代に生活をともにした仲間って特別ですよね。今も年に1回は会っています。

夜更けの中州で衝撃を受けた一言

堂上:ところで、森さんが金融業界を目指したきっかけは何だったのでしょう?

森:法学部に入ったから、弁護士にでもなるかと思っていたところ、ある時、映画『ウォール街』を見て「これだ!」と。それで長銀に行ったんです。ところが入社して与えられた社宅が畳の狭い部屋で、ずいぶん映画と違うなあ、と(笑)。

堂上:映画がきっかけというのもまた意外ですね。せっかく日本の産業を支える銀行に入ったのに、吉祥寺か藤沢の配属を希望するというのは、確かにほかの人と違いますよね。

森:でも、長銀はお客様思いのいい銀行でした。それが国有化されそうだったので、米国系金融に移ってみると、完全に数字の世界。仕事としては面白くなかった。それで「九州を任せてほしい」と会社に直談判して、30歳そこそこで九州エリアを任せてもらったんです。

それから1年間、ウィークデイはホテル暮らしをしながら、自分のスタイルでお客様を開拓していったところ大ブレイクして、あれよあれよと業績が上がっちゃったんですよ。外資系のバンカーが九州にはいなかったから珍しがられたんです。この時期に、地元の色々な方と知り合えました。

堂上:九州での成功をアピールすれば、本社で出世の階段も上がれたと思いますが、その後は福岡で独立される道を選ばれましたね。

森:ドーガンの設立時に監査役になってもらった、頭はいいけどめちゃくちゃ変わった弁護士の先生が九州にいましてね。中州で一晩に何件も飲み歩くような人なんです。全部ご馳走してくれるのですが、ある晩、夜中の12時ごろに、その先生から「お前は500億円の金を動かしているけど、そこで儲けた金はどこに行ってるんだ?」と聞かれました。

「ニューヨークに吸い上げられているか、デリバティブで消えたり、ヘッジファンドに行ったりしているんじゃないですか」と答えたら、「九州で500億集めて、それは地域のために役に立ってるのか?」と言われましてね。

その言葉にはっとさせられました。衝撃で酔いも覚めてしまって、「自分の人生、何やってんだろう」と。そこからスイッチが入りました。この地域を金融の力で応援しようと思ったんです。

セレンディピティを引き寄せる習慣

堂上:九州に赴任して、わずか数年で500億円ものお金を集めたというのは、相当な方々との出会いを短期間で得られたということですよね。

森:振り返ってみると、ここぞという時に、大事な方との出会いに恵まれましたね。

堂上:偶然がもたらす幸運な出会いなどを意味する「セレンディピティ」という言葉を私たちは使うのですが、森さんのように求心力を持って周りの人たちを引き寄せたり、一緒に何かやろうよって言ってもらえるのは、どういうところからなのかとても興味があります。

森:人からはよく「おまえ、セレンディピティ指数が高いよ」とは言われていました。思いつくことといえば、「いつも人を探している」ことですね。新聞を読んでも人と会っても、常に「この人と一緒に仕事できないかな」と考えています。

堂上:実は私も、会う人、会う人、この人と仕事できないかなと思っていまして、同じだと思いました。ちなみに、人と出会えるような場所にも行かれますか?

森:若い頃はそういう場所にもよく行ってましたね。福岡だと「あの小料理屋に〇〇さんがよく来てるよ」といった噂が耳に入ってくるんです。すぐに飛んで行きました。行って会えなければ、女将さんに「〇〇さんが、来たら教えてくださいよ」と頼んでいましたね。

堂上:やっぱり行動力があってこそなのですね。私も若い頃から絶妙なタイミングでいい出会いをもらって今日に至っていますが、考えてみればスポーツジムを選ぶにしてもいい人に出会えそうなところを選びますし、起業したての今は1カ月で400人以上の方とお会いしました。あっという間に名刺がなくなります。

森さんが自分からどんどん動いていたと聞いて、やっぱりそうかと思いました。ただ会えたとしても、声をかけるのは勇気がいりますね。

森:私は高校生の頃から、この人と思えば勇気を振り絞って声をかけていました。映画の『ウォール街』でもチャーリー・シーンが「Life all comes down to a few moments.(人生の大事は一瞬で決まる)」というシーンがあるんですよ。それに刺激されて、社会人になってからも、失うものなんてないんだから行っちゃえ! と。

それで恥をかいたこともあるし、失礼があったかもしれないですが、得るもののほうが大きかったですよ。

堂上:セレンディピティは足を使って、勇気をふり絞って、引き寄せるものなんですね。

九州エリアのWebメディア『Qualities(クオリティーズ)』で協業

堂上:九州のウェルビーイングな人や会社を紹介するWebメディア『Qualities(クオリティーズ)』が生まれたのも、森さんが博報堂に直接、連絡をくださったのがきっかけだったと聞いています。今、編集長をしている日野という者が、森さんから連絡をいただいた時、「伝説の“あの森さん”から連絡って何ごと?」とドキドキしたと話していました。

森:私の長銀時代の知り合いで、博報堂さんに移った人がいるんです。その人から2017年頃に、「地方創生について教えてくれ」と言われて、銀座あたりのバーで飲んだんですよ。その時に「うちにお前と同じことを言っている人がいる」と、博報堂ケトルの日野昌暢さんの連絡先を教えてもらって、すぐに連絡しました。

堂上:それがきっかけで、協業させていただくことになりました。森さんに新しい人材マッチングの事業モデルを作っていただいたと聞いています。

森:有名人材サイトの事業モデルは、地域企業にとって費用対効果が薄くて負担が重いんですよ。『Qualities(クオリティーズ)』は、福岡の会社の社長が中州で一晩に使うくらいの月会費をもらう形で、要はサブスクモデルでいきませんか? と提案しました。

堂上:ナイスプライシングですね。森さんが『Qualities(クオリティーズ)』を立ち上げた目的とは?

森:単純にドーガンが支援している会社に、いい人が来てほしいと思ったんです。九州にはいい会社がたくさんあるのに地味だし、PRが苦手なんですよ。都市圏からも「ここで働きたい」という人が来てくれるような人材紹介業をしたかったんです。

うちは投資業が本業ですから、メディアで儲けようとは思いませんが、やるならしっかりしたメディアとモデルを作りたいと思っていました。日野さんは私の思いを共有してくれて、思い描いていたようなメディアができました。

伝説の投資家が描く意外な未来計画

堂上:プライベートな話を聞かせてもらいたいのですが、森さんは何をしている時が一番楽しいですか? 

森:今、自分でもいい事業がやれているなと思っていまして、優秀なメンバーたちも東京より福岡を選んで働いてくれています。それは嬉しいことなんだけど、楽しめているかというとどうですかね。最近、義務のようにもなってきて……いまだに“悩める子羊”ですよ。

堂上:でも、お話の端々から今の事業にやりがいを感じていらっしゃる様子がうかがえます。では最後に、今後やってみたいことを聞かせてください。

森:会社を「ホールディングス」にして、若い人たちに新しい事業をどんどん作ってもらう構想を練っています。グループ企業として貢献してくれるなら、あとは自由にやっていいよ、と。他人にルールや給料を決められるのではなく、自分でルールと給料を決めて働く道筋を作ってあげたいんです。今の会社を、パブリックな存在にしていくことを考えています。

私も天神の裏通りあたりで、パン屋さんとかやりたい。来てくれた学生さんたちの相談に乗ってあげたり、そういうことをおじいちゃんになっても、ずっとずっと続けられたらいいなと思っています。

堂上:九州の“伝説の投資家”が裏通りのパン屋さんのマスターになりたいとは、素敵な計画ですね。意外なお話の連続で、本当に楽しい時間をありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

森:こちらこそ、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

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